手書きのススメ
手と脳は確実につながっていて、デザインでも音楽でもそうだが、頭で考えるのではなく手が勝手に動いて作品が出来た、という感覚を体験することがある。それはきっと頭で考えたことを言語化するタイムラグが極限まで省略され、脳からの信号と手からのアウトプットがシンクロした状態なのだろう。
常にアイデアを頭で必死に考えることは当然必要なことだが、それだけではなく無心で手を動かすことで脳が活性化される。よく手先を使うとボケの防止になると言われるようなことだ。パソコンを使う機会が増え、技術で差がつきにくくなっている現在では、手をどれだけ使っているかが最終的な違い、アイデアやクオリティの違いにつながっていくのではないか。
デッサンがまったくできないデザイナーや楽器を演奏できないミュージシャンは増えていく。しかし、凡庸の殻をやぶりたかったら、少しでも手を動かす機会を増やしたらどうだろう。まずは常に大きな紙を用意する。大きな文字や絵をバンバン書く。(ところでデザイナという肩書で小さなメモ用紙しか持ち歩かない人がいるが、ちょっと信じられない・・・そういうデザイナの作品はデザインのスケールも小さい。ことが多い。と思う。)会議の席では最近は自分のノートパソコンを持ち込む人が増えた。(ところで自分の経験では会議中にパソコンを開いている人の半分以上はたいてい別の仕事をやっている。と思う。)手で何か書くことは脳を活性化するが、キーボードをたたくことは意識をそちらにとられるため、思考の集中力はかなり落ちる。電話をかけながら手で紙に無意識の幾何学模様を描くことはできるが、電話をかけながらパソコンのソフトで幾何学模様を描き続けるのは無理なのだ。また会議なら内容をビジュアルでその場で共有化することが重要だ。
もともとそう思ってはいたのだが、先日カンブリア宮殿で川崎和男さんの「学生にはとにかくデッサンをしろと教えている」という話を聞いて、あらためて強く思った次第。まずは自分からもっと実践しよう。あと、デザイナの入社面接では手書きの作品を必ず見るようにしたほうがいいかもしれない。人間の可能性を広げていくのは人間の肉体しかないのだ。